アンティークっぽさの正体
こんにちは、小西です。
「アンティークっぽい感じが好き」
humの店頭で日常的に耳にする言葉です。
「アンティーク」はフランス語で古いものや骨董品を意味しますが、一般的には100年以上の歴史があるものを指します(100年未満のものはヴィンテージと呼んで区別されます)。
humのジュエリーには、なぜ「アンティークっぽさ」があるのでしょうか?
そもそも、「アンティークっぽさ」とは一体何なのでしょうか。
まずは「アンティーク」と呼ばれるジュエリーの特徴を羅列してみます。
100年以上前に作られたものですから、現代とは大きく異なる部分も多いです。
・デザイン
ジョージアン、ヴィクトリアン、エドワーディアン、アールヌーヴォー、アールデコ・・・それぞれの時代ごとに大きな特徴があります。
時代が変わり技術や文化が発達するにつれ、人々が求めるものも変化します。その変化の過程で、様々なジュエリーのデザインが生まれてきました。
例えばアールデコ。第一次世界大戦の後、女性が男性と同じように仕事をする時代になりました。これまで貴族が身に着けていたエドワーディアンのようなジュエリーは必要とされなくなり、直線的で抽象的、大胆で強いアールデコのデザインが誕生したのです。
このように、アンティークのジュエリーはその時代背景を考察しながら楽しむことができるものです。
・作り方
元来ジュエリーは手作業によるもので、オーダーメイドでひとつひとつ作られました。現在のようにジュエリーが工業的に大量生産されるようになったのは、第二次世界大戦の後です。
アンティークジュエリーの大きな特徴のひとつは、量産という概念が生まれる前に手作りされたものであること。技巧を凝らした細工や装飾はハンドメイドの証です。アンティークと呼ばれるジュエリーにはハンドメイドでしか作り得ないもの、ハンドメイドならではの風合いを持つものが多数存在します。
・ダイヤモンド
現在主流のラウンドブリリアントカットは1919年に発明されました。誕生してからまだ100年余りの新しいカットです。
つまりアンティークのジュエリーにはラウンドブリリアントカットが発明される以前のダイヤモンドがよく使われています。例えば17世紀に人気を博したローズカット。底面が平らで三角形の面を組み合わせてドーム状に研磨されるローズカットには、ラウンドブリリアントカットとは全く違う奥ゆかしい輝きがあります。
次に、humのジュエリーの特徴を見てみましょう。
・デザイン
長い歴史を持つジュエリーのルーツに目を向け、伝統的なスタイルと技法に現代的な解釈を加えてデザインされています。
新しいスタイルが生まれるのは時代の移り変わりに伴う必然だと考えているため、歴史を無視してデザインすることはありません。
つまり現代人に向けてデザインされたジュエリーでありながら、その背景には必ず過去へのリスペクトが込められています。
・作り方
「記憶に残るジュエリー」をコンセプトに、自社のアトリエで自社の職人がオーダーメイドで製作することにこだわっています。
量産を前提とせず作られるhumのジュエリーには、一から留め具を開発しているものも多くあります。既成の部材はほとんど使用していません。
更にここ1~2年では、鋳造をせずオールハンドメイドで作るジュエリーを増やしてきました。人間が手間暇をかけて作るからこそ込められる熱量があると信じ、ひとつひとつ丁寧に手作りしています。
・ダイヤモンド
このJournalで繰り返しお伝えしていますが、humでは創業以来ソリテールリングのセンターストーンにラウンドブリリアントカットを用いたことは一度もありません。現在定番的に展開しているのはローズカットダイヤモンドのソリテールリングです。
ラウンドブリリアントカットが発明され4Cという画一的な基準が作られる以前の、職人が石の個性を生かしてカットするダイヤモンドに有機的な美しさを見出しています。
いかがでしょうか?ここまで来れば、アンティークっぽさの正体が見え始めてきたのではないでしょうか。
デザイン、作り方、ダイヤモンド。アンティークジュエリーとhumが作るジュエリーには多くの共通点があるのです。
デザインや作り方の手法がアンティークに共通するのは、humにとっては当然のことです。
ミュージシャンを目指す人が、過去の音楽を全く聞かずして作曲を始めるでしょうか?ジュエリーには長い歴史があるのですから、その歴史を学ばずして新しいものを作る事はできないと思います。
日本におけるジュエリーの歴史はヨーロッパに比べてかなり浅く、十分な知識や技術を持ったジュエラーがいないまま市場規模だけが大きくなってしまったので、私達のような手法でジュエリーを作っている人たちを見かけることがあまり無いのかもしれません。
ダイヤモンドについては画一的な基準の元でカットされるラウンドブリリアントカットが工業的だと感じるため、それとは違うものを選択しています。この点においてはhumとしての美意識が強く出ています。
ローズカットやクッションカットのダイヤモンドを使いながらもオリジナルカットを自分たちの手で発明したいと強く願い続けているので、ゆくゆくはもっと新しい価値観のダイヤモンドジュエリーを作る可能性もあります。
どうやらhumのジュエリーがアンティークっぽいと言われる所以は、歴史に敬意を払いながらも固定観念に囚われず自分達の美意識を貫いているところにあるようです。
産業革命より前の時代、ジュエリーは貴族や上流階級の限られた人達だけしか身に着けることができませんでした。そしてこの頃はジュエリーに限らず、洋服も靴も全てがオーダーメイド。全ての作品は、職人が顔の見える顧客のために製作したものでした。
産業革命が進んで経済が活発化し、富を得る人が増えたことにより、ジュエリーは大衆のものとなりました。これまでのようにひとりひとりに向けて作品を作るのではなく、「いかに効率よく大量に作って売りさばくか」という考えで商品が生産されるようになっていきます。
誰でもジュエリーを買って身に着けられる今、量産をせずに1点1点オーダーメイドで製作しているhumのようなブランドは、かなり稀です。「誰が誰のために作るのか」が明確なhumのものづくりは、アンティークと呼ばれる時代との大きな共通点だといえます。
古き良き時代におけるジュエリーの在り方を伝えていくことは、ジュエリーを生業とするにあたって重要なミッションのひとつだと思いますが、なかなか私達以外にはその役目を買って出ようとする人がいないようです。
humの魅力を「アンティークっぽい」という比喩で表現してくださる皆様は、今日お話ししたようなことを無意識の内に感じ取っていらっしゃるのではないかと思います。
この記事を通してアンティークっぽさの正体を掴んでいただけたなら、これからのジュエリーの見方にちょっとした変化が起きているかもしれません。
皆様がお選びになるジュエリーが、100年後にアンティークとして受け継がれていくことを願っております。
今日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。